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3-17 クリスマスプレゼントに欲しいものは 2

last update Last Updated: 2025-03-18 21:30:20

「こんばんは、九条さん。偶然ですね」

「はい、実はそちらのビルに用事があって来ていたんですよ。このドレスを見ていたんですか?」

琢磨は青いドレスを指さすと尋ねた。

「あ。は、はい。素敵なドレスだなと思って……」

朱莉は頬を染めながら答えた。

「確かに素敵ですね……。奥様に似合いそうですね」

「いいえ。ただ見ていただけですから。それにあったとしても宝の持ち腐れになってしまいますし」

「そうでしょうか? 今後必要になるかもしれませんよ?」

琢磨は首を傾げ、次の瞬間息を飲んだ。朱莉があまりにも悲し気な目でワンピースを見つめていたからである。

「奥様? どうされましたか? そう言えば何故こちらにいらしたんですか?」

「あの……九条さん」

「はい、何でしょうか?」

「奥様って……私はそんなんじゃありませんので、どうか名前で呼んでいただけますか? 始めの頃のように」

朱莉は悲し気に言った。

「そう言えば最初は朱莉様と言っていましたね。それでは朱莉様で……」

「いえ、様付で呼ばれるほどの大した人間ではありませんので、さん付けで呼んでいただけますか?」

朱莉は顔を上げて九条を見た。それは真剣な眼差しだった。

「分かりました。それでは朱莉さんと呼ばせていただきます」

「ありがとうございます。あの……先ほどの九条さんの質問の件ですが……あの病院に母が入院しているんです」

朱莉の指さした方向には巨大な病院が建っていた。

「そう言えば、朱莉さんのお母様は転院してあちらの病院に移られたのですよね? それでは面会の帰りなのですね?」

「はい。あの……翔さんは……どうしてますか?」

「はい、副社長ならお元気にしておられますよ? 朱莉さんはもう副社長にクリスマスプレゼントのリクエストはされたのですか?」

朱莉がその言葉に一瞬ビクリと肩を動かす。

「もしかすると朱莉さんは副社長にリクエストされていないんですか?」

琢磨は声のトーンを落とした。

「あ、あの。私からリクエストなんて、そんな図々しいことは出来ませんから」

「副社長から聞かれなかったのですか? リクエストの話はありましたか?」

「ありません……。それに、たとえリクエストを聞かれても……その願いが叶うかどうか……」

そこまで言うと朱莉はハッとなった。いくら翔の秘書だとは言え、話し過ぎてしまった。

「すみません、九条さん。私、用事があるのでこ
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